長野県佐久市、柳田清二市長(40)が、第4子の誕生を受け、育児休暇を取得。期間は6月5日から9日までの5日間だったが、文京区長の育休取得に続いての首長の育休取得は、メディアでも話題に上った。

 

育児休業法改正、施行日のまさに2010年6月30日当日、ファザーリング・ジャパン安藤哲也氏との対談が行われた。

 

【短期間の育休を複数回取るのが、現実的】

安藤 文京区の成澤区長が4月に首長で初めて育休を取りました。初めてのお子さんで、ご自身も父親としての意識を高めたいという意識と、また東京23区で文京区だけが男性職員の育休取得がゼロだったので、男女共同参画の観点からもリーダーが育休を取ることで、道筋を作れないかという思いもあったようです。実際に区長が育休を取得した1カ月後に、男性職員が育休を初めて取得したのでトップが取るということでのインパクトは、かなりあったと思います。首長や著名人が育休を取得することで、社会的な空気も変わってくるのかなと思います。

 

柳田 私の場合、今回育休取得は5日間でしたが、短期間で複数回取るというのが、リアリティがあるかなと思っています。佐久市の場合は職員の削減計画もあり、窮々としてきている部分もあります。そのようなこともあり、様々なセクションで忙しさが増してきていて、女性もそうですが、男性も休みを取りにくくなってきています。

 

「男性も育休を」というような流れが出てきている中で、「2カ月休みます」などと、まとまった休みを取るよりは、短期の休みを複数回取るという方が現実的かなと思っています。セクションによって休みを取っても影響が出にくい時期もありますから、その方が職場的にも調整しやすいということはあると思います。

 

私が育休を取得した期間には、全国の市長会がありましたから、職場にとってはもともと、私が会議に出て市役所には不在であろうという意識は織り込み済みだったので、ほかの日程よりは育休を取っても影響が少ない時期だったとは思います。

 

セクションによっては、育休取得自体は良いけれど、「今の時期に取るのか?」ということは現実にはあると思います。

 

【育休取得を決意させた、妻の言葉】

安藤 民間企業であっても「人の反感をかってまで取ることはないよね」という空気はあると思いますが……。ところで今回の、市長の育休取得については、「育休を取ってすごい」という反応と共に「たった5日なの?」という反応もあったようです。その辺は、どうお考えになりますか?

 

柳田 でも、育休取得後の今も「育休中じゃないの?」って言われます(笑)。今回取るときにも、「また秋に、(育休)取るかも知れません」って言ってあるんです。

 

安藤 そもそも育休を取ろうと思った理由は?お子さんは、おいくつですか?

 

柳田 子どもは小4女、小2男、3歳男、今回5月8日に生まれた女の子です。妻が今年の初めに血圧が上がり、妊娠中毒症的な診断も受けたりして、数日の入院もあり、妊娠の経過が大変でした。兄にも4人の子がいて、実母がサポートしてくれている部分もあるのですが、今回の子は8人目の孫。母も高齢でもあり、産後手伝ってもらうのは難しい。妻の母も来てくれたけれど、ずっとというわけにもいかない……。そういう状況の中で、「(自分が)育休を取ってみようかな」と思ったわけです。そんなタイミングで文京区長の育休の記事や報道を見て「(首長が育休取ると)こんなことになるのか」なんて、ちょっと思いました。

でも、自分の場合は、今まで熱心に育児をしてきたわけでもないので、5日間育休取ったことを「取った、取った」と騒ぐのもいかがなものかという思いや、照れくささもありました。

でも、育休を取ろうかなと思ったときに、自分自身、選挙で選ばれて仕事をしている訳なので、妻に言っても「私的なことより公的なことを優先すべき」と言われるかなと思ったら、逆に「(育休を)取れるなら取って欲しい」と言われたんですよ。そういう反応は初めてだったので、びっくりしましたし、その言葉が育休取得の決め手になりました。

 

4人目の育児ということの不安、もちろん、2人目の子の母親になるときも、3人目の子の母親になるときも、初めての経験なわけですよね。妻にはそんな不安やプレッシャーもあったのかなと思います。

 

実際に、育休を取ってみて、そのほかの子どもとの時間をしっかり取れたことの方に価値があったように思います。

 

【育休取得によって、家族の関係が円滑になった】

安藤 育休の取得は、産まれてくる子や、子どもたちともっと一緒にいたいという気持ちが強かったということもありますか? 文京区長は、政策云々というよりも、純粋に一人の父親として、44歳にして初めて授かった子の幼い時期にできるだけ一緒にいたい、妻を支えながらと言う気持ちが強かったようですが。

 

柳田 私の場合は複合的ですね。家庭の中での人間関係の充実という感じかな。わが家の場合は6人家族なので、関係性から行くと30通りの組み合わせがある。その関係がすべて、育休の期間があったことで、円滑に回りやすくなったという感じがします。

自分自身、平成20年の12月に出馬を決めてから今まで、ほぼ無休で働いてきました。大晦日や正月も、何が起きるかわかりませんから、予定を入れられるという感じでもない。そういう意味で計画された休みというのは、何年ぶりという感じはありました。

 

安藤 育休を取られて、庁舎内の反応はいかがでしたか?

 

柳田 議会では質問はなかったです。職員の育児休業に関する条例改正の関係では、総務文教委員会では話題になったようですが。「佐久市でも明るい話題があり、市長に4人目の子どもが生まれて、産休を取りました」……って。産休と育休を使い分けられていなかったようですが(笑)。

 

職員にはすごく話題にはなりましたね。好意的に受け止めてくれているようですが、上司と部下の関係もあり、本音の部分はわからないですが。女性は好意的ですね。育休がなかった年代の女性からは、若干冷ややかな目、批判的な印象はありますね。

 

安藤 文京区長も育休宣言後に、いわゆるニッポンの母的な方からは「女々しい」とか言われたそうですが、それを介護の場合に置き換えてみて欲しいですね。家で家族の世話をするという点で、育児と介護は同じこと。息子が母親の介護をしたときに、その母は息子を「女々しい」と思うでしょうか?首都圏では共働きも多く、すでに男性も親を介護するのが当たり前になってきています。そういう点において男の育児は、介護のトレーニングになっていると思います。

 

柳田 正直な話し、4人目の子どもの世話自体は、そんなに大変じゃないです。泣きますけど、いくつかの手だてをすれば泣きやんだり、決まった生活サイクルもありますし。むしろ3歳児の方が大変です。動き回って飛びだして行っちゃったり。だから、育休取得によって、家族全体の時間を持つことができたという印象ですね。家族の中に戻ったということでしょうか。

 

安藤 もともと同じ船の乗組員だったはずなのに……。

 

柳田 今までは船の外で、ばた足していた感じですね(笑)。

 

安藤 大事な気づきですね。上の子のときに、育児に関わらなかった父親が、第2子、第3子のときに、育休を取る例も増えています。そこで、上の子との絆が再生することも。子どもは(いつの時期からでも、親を)許す力を持っていますからね。育休中、上のお子さんの反応はいかがでしたか?

 

柳田 「家にいることもあるんだね」って言われました。以前は県会議員をやってましたから、そうすると4割は外泊なんです。市長になってからは、家にいることが増えましたけれど、洗い物はしますが、料理は作りませんから、妻にとっては、私が家にいる方が大変なのではと思っていました。

 

でも、子どもを叱る量は妻の方が多いわけですが、それも、子どものことをよくわかっているから叱れるんですよね。たとえば、夜遅くまでテレビを見ている子を妻が叱った場合、「たまにはいいんじゃないか」と僕は思ってしまうわけです。でも、叱るからには、いつもはこうしているとか、次の日の予定はこうだからとか、いろいろな理由があって妻としては叱っているわけですよね。でも状況がわからないと、「なぜ叱るのか?」って、夫婦の考え方が違ってトラブルになったりすることも。つまり、家族のことをよく知らなかったということです。

 

それが、一緒に生活することで、日々の状況が解ると、叱るべき時に、自分なりに納得して子どもを叱ることができるわけです。もちろん、子どもの言い分も聞きますよ。その上で「ここはわかるけれど、こうすべきじゃないか」とか、「じゃあ、誰が悪いと思うんだ?」とか、子どもの気持ちも整理して叱ることができる。叱るということも、パワーがかかることですから、自分がその部分を少し引き受けることで、妻のストレスも減るのではと思います。

 

【一緒の時間を過ごすことで、考え方の歯車が合ってくる】

安藤 育休を取ることで育児の技術がアップしました、妻の機嫌が良くなりましたという話しも多いけれど、本来持っている父性というか、一緒にいた時間の中で、家族の情報がわかり、思うように叱れるようになったというのは、面白い話しですね。

実際子育てする中で、厳しい父性が必要な局面もありますから。イクメンブームということで、そういう父性が衰えてしまうのではないか、母親化する父親……というのも、一部では問題になってきています。母親と同じようなことばかりしてしまう、母親と同じ調子で叱ってしまうというところのバランスが取れていないケースもあるようです。

 

柳田 父親として自分は「子どもをこう育てたい」と思っても、妻の考え方や、1日の生活サイクルもあるわけです。でも、勝手に自分の考えを通そうとすると、妻の子育てのリズムを崩してしまうわけです。

それが、育休を取って、家族との時間を過ごし、家族のことがわかってくると、「いつ、こうしよう」とか「こうした方がいい」という部分の、歯車が合ってくるんですよ。家族のことがわかった上でやると、僕の考え方を妻も許容してくれます。

 

安藤 呼吸が合って来るという感じですね。母親は、自分が育児や家事の主力担当だと思っているから、自分のリズムでやりたいわけですものね。

 

柳田 でも、それに対して疲れもあるからイライラしてしまうこともあると思います。

このまま行ったとき、子どもたちの進学や就職の時に、妻と意見が対立するんじゃないか、考え方が違うんじゃないかなと思っていたんです。でも、同じ時間を過ごすことで、僕のやることを妻も許容して、妻がすることも僕が許容できたりしてくる中で、そういう話もできるようになるんだなと思いました。

「オレは仕事してるんだから、おまえ、ちゃんとわかってるだろ」というのは、ある種の僕の甘えだったと思います。

 

安藤 甘えていたと言うことに気がついた?

 

柳田 気づいてはいたけれど、それを克服しようとしていなかったということです。言ってみれば、時間をかけないとダメと言うことですよね。

 

安藤 一般的な家庭でも同じような状況は結構あると思います。それで、子どもの問題が起きたりとか、離婚に至ってしまうというケースはあると思う。今回の市長の育休を通した行動が、そのような家族にも影響を与えると思いますか?

 

柳田 まあ、影響を与えられればいいと思いますが。

自分が政策を進めている中で、母子家庭支援などを始め、制度があることで、逆に離婚を促進していたら困るなと思うこともあります。もちろん、離婚した方がいいケースや、離婚せざるを得ないケースもありますが。でも、もうちょっと離婚をまってもいいんじゃないのかなと思うケースもある。

行政が制度を作ることによって、結果的に踏み込んでしまっていることもあるかもしれない。離婚せずに、夫婦関係を修復する方法もあるんじゃないかというような、自分なりの見方ができるようになった気はします。

 

安藤 夫が家族の一員として機能することが大切ということ?

 

柳田 妻との関係がよくなるというのは、時間の問題ではなく、気持ちの問題と言う気がします。自分のことを気づかってくれたということかなと。

 

僕が育休を取ろうと思ったのも、妻が「取れるなら、取って欲しい」といった言葉でした。いろいろと理由はあったと思いますが。

 

【育休期間に、家事労働の大変さ尊さに気づく】

安藤 日本の夫婦の場合“あうんの呼吸”という感覚が昔からありました。でも現代はライフスタイルや価値観も多様だから、言わないと分からない。いま日本の夫婦関係を見ていると、お互いにきちんと向き合ってない感じがします。家の中でも業務連絡みたいな会話しかしていない。表面的な会話だけで日常が流れて行き価値観のズレがお互い認識できていない。そのうちに何か大きな問題が起きるとそれが致命傷になってしまう……。要は日ごろのコミュニケーションの問題なんだと思いますが。

 

また、「イクメン」という言葉と共に、育休を取っているお父さん=カッコイイというイメージも作られつつあるような気がします。でも、実際には、いろいろなお父さんがいるわけです。パパが育休取ってくれても、ママが家に帰ってきたらカップラーメンが転がってた……なんていうケースもあったりして。ママからは「だったら育休取る意味、なかったんじゃない!」なんてことにもなりますね。すべての育休取った男性が完璧に育児も家事もこなせるなんていうのは大間違いで、実態としてはそんな程度のこともあるでしょう。

 

とはいえ、そういう中でも、育児を主体的にすることで、家族の絆が深まったり、気づきがそれぞれ持てればいいし、それを初めの一歩とすればいいんじゃないのかな。その自発的なきかっけが、育児休暇だと、僕は思っています。

市長も「(育休取ったからって言っても)そんなに立派じゃないから」と発言しないよりは、そういう負の部分もさらけ出して発信した方が、男性からの共感も得られるのでないですか。

ところで、佐久市でもワークライフバランスの施策はやっていらっしゃいますか?

 

柳田 行政として全ての事業で意識的にやっているのは、高い安いかのコスト主義的なこと、どれだけ環境に負荷が少ないかという環境主義的なこと。今後全ての政策に入っていくべき感覚は2つあると思っていて、この地域を活性化させていくために、ひとつは「交流人口の創出」。その中でやらなくてはならないのが、男女共同参画。担当セクション事ではなく、横で切った意識でやることが大切であると思っています。

 

自分自身では原始的な議論になってしまいますが、男女というものに関して、妻との関係もそうだし、専業主婦に関してもう少し評価が必要と思っている。知人の奥さんですが、育児が終わって働いて賃金を得たときに、これが社会的評価だと、自分の存在を確認ができたという話しがありました。

 

安藤 家事労働には賃金がありませんから、評価や達成感が確認しづらいですね。ドイツは家事労働に関して、それは外で働いて給料をもらうのと同価値なんだという国民のコンセンサスを得て、親である時間を大事にしよう、そこに対する手当を厚くする少子化克服のための政策転換をしたわけです。まだまだ日本は「給料をもらってくるお父さんが一番偉い」という発想にどうしてもなっている。

それが育休を取ることで、男性達が家事労働の大変さ、尊さに気づき、それが意識や制度改革のベースになっていくことが大切。女性サイドからだけでなく、そこを男性側が気づいていくことが大事だと思う。それには育児がいいチャンスなんです。

 

柳田 自分自身、県会議員の時代よりも市長になるとずっと公度が高かったこともあり、休みを1年半取らなかった。でも、今回育休を取ってみて、今日も休み明日も休みというのは、気持ちの上ですごく楽だった。

でもそれでわかったのは、僕自身1年半の間、休みを取らなかったけれど、妻は終わらない仕事をしているということ。10年くらい休んでいないんじゃないかなと。でもそういう想いは(妻に)言いませんけれど。

 

安藤 ぜひ言ってください(笑)! 育児は365日、24時間営業ですから。パパからの感謝やねぎらいだけでも、ママは救われます。自分の母親としての自己評価も高まるわけです。虐待してしまう母親は、おそらく母親としての自己評価が低いんだと思います。理想の母親になれない自分、そういう環境にしてくれない何かにいらだってしまう……。

 

「夫が自分を認めてくれた」「私のやり方でいいんだ」という気持ちを母親達が持てないと、育児することが厳しくなる。夫婦関係は育児にとって、とても大事です。

【言葉で伝え合い、家族が理解し合えることが大切】

柳田 育児休暇って、何のために取るのかというと、赤ちゃんの世話のためだけじゃないなと思いました。赤ちゃんのためだけの対応なら、その方法はいろいろある。

 

安藤 複数のお子さんがいるから、余計にそんな風に感じるのかも知れませんね。1人目の子だと、子どもの世話でいっぱいいっぱいかも。

柳田 子どもの世話は、その子のためにもやっているけれど、妻のためにもやっているということを、妻も納得してくれる気がします。妻の気持ちが楽になったり、僕との関係が穏やかになったり。

 

照れくさい話しですが、昔、つき合っているときに「オレのどこが好き?」と聞いたことがあるんですが、「私のことを好きなところが好き」と言われました。びっくりしましたけれど、今はその気持ちがわかります。でも、親友に「オレとおまえ、親友だよな」って言わないように、夫婦であえて言わないってこと、ありますよね。

 

安藤 育児で疲れている妻は、夫に“いい子いい子”されたいという気持ちがあるんじゃないのかな。誰も認めてくれなくなると、「何のために結婚して、子どもを産んだのか」という気分になるのでは?妻が出すサインを見逃さないためにも、夫が家庭にいる時間を長くして、お互いに言葉で伝え合うことが大事だと思います。

 

最後に、若きパパ達にメッセージをお願いします。

 

柳田 5月に金沢市で、第2回日仏自治体交流会議があり、私が座長を務めた社会文科会において、日本とフランスの出生率の議論があったのですが、制度的に整えていく、各個人の意志ではなくもう少し強い意志、社会の構造として組み込んで引き寄せていく必要があるのだなあと、政策論として感じました。

もうひとつは、結婚して子どもを産むことのすばらしさを感じられることは、すごく大きな財産。私自身、子どもが生まれて、こんなにも愛情を注ぐ対象があるのかと思いましたから。可能ならそういう経験ができることはとても大事だと思います。出生率をあげていく中で、人の親になることはとても大変だけれど、とてもいいもの、とてもいいことだということを伝えたい。その恵みを持って、家族が理解し合っていくことが大事だなと思います。

 

安藤 子どもを持つすばらしさは、母親だけでなく僕ら父親が発信していかなくてはいけないなと思っています。仕事は僕も好きだけど、仕事の代わりはいても父親の代わりはいませんから。仕事ばっかりしていると、大事な物を見失うでしょう。定年になってから家族といきなり向き合うのは大変なこと。ですから、家族とどう過ごしたいのか、そのためにいまどうしたらいいのかを考えるきっかけとしても、育休の取得が当たり前の世の中になって欲しいと思います。

 

 

 

取材・文/ファザーリング・ジャパン 高祖常子