厚生労働省からの報告

「パパの育休取得率は、1.72%から1.38%へ減少」

厚生労働省雇用均等・児童家庭局 職業家庭両立課長 塚崎裕子さん

  • 育休を取りたい男性は3割だが、最新の数値で育児休業取得率は1.38%
  • 育休取得後、仕事へ復職している人は、男性、女性とも微増している
  • 女性の育休期間は、10カ月~12カ月が最も多く、育休期間は増加の傾向にある
  • 男性の育休期間は5日未満が最多。育休3~6カ月取得は微増している
  • 日本の男性の育児時間は1時間。外国は約3時間
  • 35%の女性は仕事を続けたかったのに、断念せざるを得ない状況
  • 子育てしながら働くのが難しい環境は、少子化にも影響がある。カップルの結婚の壁は、経済的な問題。女性の出産の壁は、ワークライフバランスの問題と言える
  • 夫の家事育児時間が長いほど、第2子出生割合が多い
  • 2030年までに、男性の育休取得率を1.38%→13%に。育児家事時間を1時間→2時間半にするのが目標

発表資料はこちら


さんきゅーパパプロジェクトの事業報告と男性の「隠れ育休」調査結果の発表

「パパの育休取得率が減っている陰で、隠れ育休取得は増えている」

さんきゅうパパプロジェクトリーダー つかごしまなぶさん

 

  • 2011年7月26日現在の、さんきゅーパパプロジェクトへの寄付金総額は、82万7328円。企業からの商品支援もある。これらを原資に産休を取得したパパたちへ経済支援を行った。
  • 育休SNS登録者も159名となり、産業カウンセラーや社労士などの専門家からのアドバイス提供や孤立しやすい育休取得パパ同士の情報交換の場となっている。
  • サイトには、育休取得のノウハウなどの「e-learning」を掲載。計2790回の再生回数があった。
  • さんきゅーパパ応援メッセージ動画のPVは2万回を超えており、つるの剛士さんがもっとも多い。
  • (株)マクロミルによるインターネット調査として「隠れ育休」調査を実施。乳幼児パパの46.6%が「隠れ育休」を取得。内訳を見ると、公務員が70%。会社員が45%、経営者・役員が33%。公務員が取りやすいことがわかった。ただし、取得期間については、平均3日程度、1週間未満で約8割を占め、公務員でも会社員でも取得期間に変化はみられなかったことから、経済負担がない「隠れ育休」であっても男性の取得期間は非常に短期間であることがわかった。また、2人目、3人目と子どもがふえるほど育休取得が増える傾向がある。1人目の出産の場合は、妻の職業は「正社員」が多いが、子どもの数が増えるほど妻は「専業主婦」となっているため、短期間の夫の育児サポートでは妻の育児負担はそれほど軽減されず、「正社員」を続けられないと推測される。ただし、妻が「専業主婦」でも「正社員」でも「隠れ育休」の取得期間に変化はみられなかったことから、妻の職業と夫の取得期間に相関関係はないと言える。
  • パパは「1カ月の育休取得を希望」しているが、実際取得できているのは5日程度。ギャップの原因は、連続して職場を離れることに抵抗を示す上司や同僚、職場風土と推測される。
  • 「育休を取りたい人が、当たり前に取れる社会へ」を目指して、さんきゅーパパプロジェクトの活動は続けていく。

特別講演「パパの育休が必要なコレだけの理由」

 

あえて「育休」として休みを取る、社会への可視化が必要

一橋大学大学院経済学研究科准教授 竹内幹さん

  • この秋に第二子出産予定。有給休暇の取得でも乗り切ろうと思えば、乗りきれる
  • ただし、第一子のときのように「隠れ育休」ではなく、今回は育児休業を取得したい
  • 育休をちゃんと取得することが「可視化」になり、その実績が社会にとって重要である
  • 自分が大学教員であり、自分の社会的責任と教育責任を果たす意味においても、育休を取得しようと思った
  • 大学で講義するときに、子どもを連れていくこともある。子連れでの講義は、実際に連れて行くととてもよい効果をもたらす。大学教員は男性ばかりで、育児の現場を実感しにくい環境でもあるので、そこにあえて子どものいる風景を見せることが大切

「パパの育休取得は、静かな革命である」

経済誌記者 「稼ぐ妻・育てる夫」著者 治部れんげさん

 

  • 自分は、新聞社系の出版社で記者をしているため、賃金体系や仕事の責任は、男性と同じ
  • 「食っていける仕事を、子どもを持っても女性が続けて行かれるか」ということが重要
  • 子どもを持つと、決まった時間に帰れる仕事「マミートラック」(出世コースからはずれたキャリア)に陥ってしまいがち
  • 「妻は夫を育てるつもりで」「ちゃんと口に出して、夫にやって欲しいことを伝える」とも言われるが、会社なら何でも指示しないと動けないのは、使えない新人。夫を使えない新人にしないことが大切
  • 夫は、子どもが3歳くらいになって、言葉でコミュニケーションできるようになると、かわいくなり遊んでくれるようになるものだが、一番大変なのは生まれてすぐの新生児期。それまでに、夫婦で家事や育児のトレーニング期間を作るべき
  • パパの育休取得は、静かな革命。困難を乗り越えて頑張って来た先輩女性のおかげで、現在、子育て支援のいい制度がたくさんできている。次は、男性が頑張る番である
  • 「育休を取得したい」と申し出たときの、上司の不機嫌に負けず、小さな勇気を積み重ねていくことが大切。それが社会を変えることにつながっていく
  • 周りの人が、子育てしている親に言葉をかけてくれることが、大きな励みになる。「おはよう」「かわいいね」「元気だね」という言葉で、親子はパワーをもらえる

パネルトーク「男性が育休取得できる社会にするために行政・企業・個人に必要なこと」

 

安藤(以下、安) なぜイクメンの育成に取り組もうとしたんですか。

 

土屋(以下、土) 初めは、次世代法の認定(くるみん)を受けることが目的でした。生活用品の会社なので。イクメンの男性に社内報に日記を投稿して もらっていますが「細切れ時間を使えるようになった、でもママさん社員はすでにやってたことに気づいた」といったことが書かれています。業務の効率化もできるということですね。

 

富永(以下、富):19年前に育休をとりました。子どもは母親より私に、自分の弱みを見せてくれますし、私との会話の方が多いように感じています。

 

安 ぼくも中学生の娘とうまくいっています。

 

つかごし(以下、つ) 隠れ育休も入れて4回取りました。2人目のときは管理職で取ったので経済負担が思った以上に大きくてショックを受けました。ベビーシッターを雇った方が安いんじゃないかって思うくらい。しかし、妻にそう話すと、「あなたがいなかったら、家庭は回らなかったし、崩壊していたかも。」と言ってくれました。妻には評価されていたので良かったです。

 

竹内(以下、竹) 子育てはすごく大変なだけみたいに聞こえるかもしれないけれど、そうではありません。

自分の子どもは、インターネットでよく見かけるかわいいネコや犬の1万倍かわいいぞ!

苦行ばかりではありません。

 

本井(以下、本) 子どもが産まれたら絶対に育休をとりたいと思います。

 

山口(以下、山) FJの会員約200人に呼びかけ、育休をとったことのある人に、「育休で自分の考え方やまわりの環境がどう変わったか」アンケートをお願いしました。その結果9名から回答があったので報告します。

 

  • 育休期間 9人中7人が1ヶ月以上。
  • 勤務時間の変化 残業が減った、帰る時間を決めて仕事をするようになった。
  • 仕事内容の変化 ほとんどの人が変わらない。
  • 周りからの評価 ほとんどの人が変わらない。一部の上司が態度を硬化、自己管理能力をプラスに評価された、子どもの話題を振られるようになった、子育てしている人として見られるようになった。
  • キャリアアップに対する考え方 二極化(より強く意識/意識しなくなった)

  強く意識派→ 厳しい道を選択したという自覚。昇格出世をめざし、よい先例になろうと思う

  意識しなくなった派→ パートナーと自分のキャリアとお金をトータルで最適化しようと考えている。生活の上に仕事 があるという認識に変わり、まず生活を大切にしたい

  • 復職簿WLBとれている? とれている5名、とれていない1名、その他3名
  • 働くママへのひとこと 一人でがんばろうとしないで、夫婦でよく話し合って子育てしてください。パパはもっと子育てに関わりたい、育休を取りたいと悩んでいると思うので、悩みを聞いてあげてください。

安 男性の育休はどうしたら伸びていくと思いますか?

 

治部(以下、治) あるIT企業を取材しました。男性の育休取得が人材戦略の中に位置づけられています。社内結婚の夫婦で一人目の子どもは妻、二人目は夫が取得したりしています。問題があるのは職場の雰囲気。制度は整っています。取材した企業では、管理職の中高年男性に休暇を取らせることが、男性の育休の支援になる、と考えていました。

自分の例では一人目の出産で産休、育休を取ったら評価が下がりました。二人目の妊娠を告げたときの上司は、「君のような優秀な女性が子どもを産んでくれるのはありがたい。ランチに行こう」と言ってくれた。この上司は社外にも友人が多く、仲間とよくスポーツ観戦を楽しんでいました。仕事以外にも楽しみを持っている上司は、部下のWLBもサポートできるのだと思います。

 

安 その世代を楽にしてあげなければならないですね。

 

つ 私は上司に恵まれました。ただ、育休SNS内のアンケートによれば、育休を最初にカミングアウトした相手は72%が「上司」と答えています。男性の育休などを促進しているのは人事部だったりしますが、育休を取りたいと最初に言う相手は人事部ではなく、上司なわけですから、上司に対する啓蒙は必要ではないでしょうか。

 

竹 準備を整えておく、根回しをすることが大事です。自分の場合は広報に話を持っていきました。

 

富 固定的な性別役割分業意識をベースに長時間労働の実態が確立した企業風土という厚い壁があって、ほとんどの企業は男性の育休を許容できていないし抑制しています。ヨーロッパでは労働運動や社会運動によって週35時間労働に進み、16時には多くの人が帰宅します。残業は例外的だし、ワークライフバランスがかなり進んでいる。労働運動や市民運動のなどの社会運動によって、この企業風土を変えていくという視点が是非必要だと思う。

 

安 制度の話に戻りますが、パパママ育休プラスという制度があります。片働き世帯の場合育児休業給付が50%しかでないので所得の減少が原因で取得が進まないのでは。FJでは80%の支給を主張しています。

 

塚 男性の育休取得が進まない主な理由は二つあると思います。一つは職場に迷惑をかけると感じている人が多いこと。二つ目は経済的なダメージです。育児休業給付は雇用保険から出ていますがこの財源が非常に厳しい状態です。そのため増やすことはなかなか難しい状況です。直接は関係ありませんが、国家公務員では育休を1日取っただけで賞与が2割減ることになっていますが、これを取得日数に応じた減額幅にするよう見直しを検討することになりました。こういった形で少しずつですが見直しは進んでいます。

 

安 ドイツは給付を7割に上げて育休取得率が20%になりました。

 

土 弊社では、賞与は控除になりますが、2週間を有給にすることによって、男性の育休取得率は7%になりました。それ以外に「妻の出産休暇(2日)」を、みんな取っている状況です。

 

治 アメリカでは有給の産休、育休はありません。それでも出生率は2.1人です。非ヒスパニックでも1.8人。大学の研究所に勤めている夫妻(夫:物理学者、妻:経済学者)は、制度はありませんが夫が学部と交渉して6ヶ月の育児休業を取得しました。日本は女性が東大や慶応といった一流大学を卒業していてもキャリアをあきらめてしまいます。アメリカでは女性だけでなく男性も職場と育休取得に関して交渉しています。アメリカの場合、辞めるという選択肢がありますが日本はない。日本にももう少し雇用の流動性があればいいのですが。

 

本 (就職活動で育休の有無を企業に聞いたか?と聞かれ)聞く時と聞かない時がありました。終盤ではワークライフバランスの制度の充実より、自分のやりたいことを優先しました。

 

安 ダイバーシティ・マネジメント推進のためにイクメンが果たした役割は?

 

土 液体洗剤のコンセプトを決めるときに子育て男性の話が生きたという例があるそうです。

 

安 冷凍食品の会社に呼ばれたとき、お父さんにお弁当を作らせてマーケティングに役立てるという企画がありました。

 

竹 キャプテン・オブ・インダストリー(産業の統率者、一橋大学の校是)として率先して取組みたい。米国の例ですと、大学にも保育園があり、教授→ポスドク→学生→職員 という優先順位で入れることになっています。

 

安 大学の体質は古いですね。昭和の香りがします。粘土層が手強いですね。

 

 

「質疑応答」

 

Q 男性の育児休業取得率の数値目標(平成32年に13%)が低いと思うのですが、3人中2人ぐらいの割合にしたらどうですか。

 

A(塚) 3人に1人が取りたいというところからまずは実現できそうな目標としてこの目標値にしました。

 

治 15%の節電について、こんなにできるじゃん、本気になれば。と思いました。年金制度が破綻する→子どもの数が足りない、ということなので、同じようにトップダウンで配偶者が出産したら休みを取る、という動きにならないものでしょうか。

 

富 厚労省は制度の改善でがんばってきたと思います。次世代法、パパママ育休プラスなど、良い制度。マスコミがこれらをあまり報道しないのが問題だと思います。

 

竹 このままいくと日本はもたないと思います。80代は払った税金より年金のほうが多いですが、子ども世代は税金より年金の方が少なくなっています。出生率が下がり続けているのも一因です。

 

 Q 地方では上の世代の女性団体が力を持っていて、自治体などに影響力を及ぼしています。この人たちは男性の育休取得に批判的ですがどう対応したらよいでしょうか。

 

富 男性の育休取得率が9割と高いノルウェーやスウェーデンでは女性団体が男性の育休取得向上を長年運動として取り組んだ結果だ。しかし日本では、育児を女性が自分だけで抱え込んで、運動の足を引っ張ってきた面がある。女性差別の解消には家族的責任の男女共有化が不可欠だと思うし、こんな視点が大事だ。

 

安 女性が三歳児神話とかにとらわれていることがあるのではないかな。三歳児神話は平成10年(1998年)版「厚生白書」で「少なくとも合理的な根拠は認められない」とされているんですけどね。

 

治 私自身はアイデンティティーのよりどころが育児だけではないですが、そうではない人もいて、それぞれ尊重されるべきだと思っています。年配の女性団体の方のアイデンティティーも尊重したいです。リスペクトした上で持って行くやり方があるのではないかと。20代の私は子どもなんて、と思っていました。しかし、企業で活躍する誰もが知っている女性の大先輩が「子どもを持てばよかった」とポロッとおっしゃるのを聞き感じるものがありました。

 

安 イクジイプロジェクトは世代を超えて協力関係を構築するというねらいもあります。対立からは何も生まれないから。

 

土 確かに家庭での役割を果そうとして、夫との葛藤や仕事との板ばさみで悩んでいる人は社内にもたくさんいるように思います。うまくいなかいスキマを会社の制度に埋めてもらおうとしているのではないでしょうか。自分の選択、夫婦の選択を大事にしてもらうためにもっと夫と自分のキャリアについて話して欲しいと思います。

 

塚 地域における男女共同参画の活動が曲がり角に来ていると感じます。後継者がなかなか育成できていないといったような問題が出てきています。解決のカギはネットワークです。男女を超えた、世代を超えたネットワークを作ることだと思います。

 

「最後にひとこと」

 

つ さんきゅーパパプロジェクトに申請してきたパパ達は職場や社会を変えたい!という強い意志を持った人たちがほとんどでした。こうした意欲のある父親たちを1人でも多く見せていき、ロールモデルを増やしていきたいです。

 

本 学生としてこの問題に関心を持ち、仲間に伝えていきます。

 

山 夫婦間のコミュニケーション、社員と会社のコミュニケーションが足りないことがわかっているので、そこをうまくつなげていく支援をしていきたいです。

 

富 育児家事を男にもやらせれば女性の世界がもっと広がる。まずは、女性が、子育てって自分だけのものではなく、パートナーにもさせてもいいんだと気づくことだと思う。女性が変われば、男も変わり社会も変わり、政党も変わり、政治も変わり、社会も変わる。また、労働組合も企業風土を変える大きな役割も持っているので、組合の役員にもなって、組合を変え、社会を変えてほしい。

 

竹 夫婦が仲良くすることが大事だと思います。

 

治 上司はなかなか変わりません。しかし同僚ができることがあります。同僚の男性に子どもができたことを知ったら、一人一人がことあるごとに「で、育休はいつから取るの?」と聞くことです。いろんな人に繰り返し聞かれれば、本人も「ボクにも育休取るっていう選択肢があるんだ」ということに気づきます。

 

安 妊娠の見える化が必要!のぼりを立てるとか(笑)

 

土 育休を取った男性の周りで、複数の育休が発生するという事例が出ています。イクメンがイクメンを呼ぶといったような。このネットワークをどんどん広げていきたいなと思います。

 

塚 育児介護休業法等制度の周知がまだまだ足りないと思うので周知徹底させることと、意識改革をより一層すすめていきたいと思います。

 

安 パネラーの皆さん、会場の皆さん、どうもありがとうございました。

 

育休交流カフェ

育休取得パパからの報告があり、ワールドカフェ形式で、育休取得について、子育てのことなどを語り合いました。