益田市の福原慎太郎市長(38)は、第一子誕生を受けて2011年3月から4月に育児休業を取得。復帰後間もない5月中旬、ファザーリングジャパン代表安藤哲也(48)との対談が行われた。そこにあるのは、今の30代らしいナチュラルで等身大のパパの姿だった。 

 

【早く帰れることが、妻の支えになった】

 

安藤 育休はどのように取られたのですか?

 

福原 そもそも特別職というのは、休みや勤務時間の概念がありません。2月3日に長男が産まれたのですが、実は丸一日の休みはありませんでした。3月は実質15分だけ(笑)4月は、一年で一番休みを取りやすい時期なので、一日1時間とか2時間、多い日で3時間半ぐらいでした。結局、トータルで約17時間という育休になりました。

 

安藤 育休中は何をされていましたか?

 

福原 基本的には、おむつを替えたり、妻が料理を作っている間に子どもを見たり、あとは風呂を掃除したりですね。

私は普段からたまに料理もしていました。まぁ、「やっています!」と言えるほど出来てはいないんですけど。

 

安藤 30代の男性は、今、普通に家事をする人が多いですからね。

 

福原 一番大きかったのは、私が早く帰れること。普段なら8時ごろに帰るのですが、懇親会などがあると8時半を回ったりします。それが、5時台、早いときは4時台に家に帰れるということ自体が、妻にとっては精神的な安定になっていたと思います。

 

安藤 奥様のケアというか精神的な支えという部分が大きかったわけですね。

 

福原 そうですね。

 

【意識を変えるために、あえて育休を「宣言」】

 

安藤 奥様は、現在は専業主婦をされているのですか。

 

福原 はい、もともとは働いていましたが、今は専業主婦です。昨年結婚し、ちょうど一年後に子どもができました。

 

安藤 以前は本田技研工業(株)にお勤めでしたが、その時は名古屋ですか?

 

福原 はい、大学を卒業してから4年ぐらい名古屋にいて、その後松下政経塾に入りました。

 

安藤 本田技研から松下政経塾への転機はあったのですか?

 

福原 高校時代から、ふるさと益田のために何かしたいという思いがありました。大学時代に政治を志しましたが、社会人経験をして、しっかりと気持ちが固まってから考えようと思っていました。ふるさとのために、という気持ちがずっとあったわけです。

 

安藤 今はご実家ですか?

 

福原 いえ、市役所の近くにマンションを借りて三人で住んでいます。

 

安藤 核家族で子育てする夫婦も増えています。男性の育休はやはり必要ですか?

 

福原 首長の育休というのは、そもそも休みの概念がないので、黙って取っても全く問題がないわけです。とくに「すごい」と言われることでもなくて、逆に、広島県知事が表に出たのでいろいろ言われたように、あんなに攻められることでもない。私自身は、公務に支障がなければ問題ないと思っています。

 

安藤 そうですね、でも日本はまだまだ男性が育児で時間を取ることに対して、難しいところがあります。

 

福原 そういう意味では、あえて言ったという面はあります。意識啓発ですね。

 

【「休みを取る」ことに罪悪感がある人たち】

 

安藤 益田市の男性職員の育休取得も過去2名ぐらいですよね。市長が取られてから空気は変わりましたか?

 

福原 そのあたりはまだまだです。そもそも、有給休暇を取るという意識が低いのです。職員の中には「人が減ったから取れない」と言う人もいますが「仕事を休んでもやることがない」と言って出てくる職員もいるようです。私も以前はありましたが、「休むことへの罪悪感」が深いような気がします。

 

安藤 そういうメンタリティが日本人はありますよね。休みで何かクリエイティブなものを生み出そうとか、休みをプラスに活かす発想がない。

我々はよく「育児休業」というよりも、「育児修行」と言っています。育児はやれば大変。仕事をしている方がラクかもしれない。そこで鍛えられ、時間の使い方がうまくなったりするわけです。

 

福原 いや、本当にそうです。夜中に泣かれたら、これは結構きつい。夜、子どもが寝つけない時に、私がちょっとの間見ていると妻はラクになります。その分私も寝不足になるので、出社時間を遅らせるなどして育休を使っていました。育休はそういう感じでしたね。

 

安藤 子どもが産まれて自分一人で育児をやっていると、だんだん追い込まれていくママも多い。だからFJでは、子育て期はワークライフバランスを意識し、自分で働き方を改めて家族と過ごす時間を増やすことを提唱しているのですが、まだまだ「職場に遅くまでいることが良い」とする風潮が強く、そういう強調圧力に負けてしまう人もたくさんいます。

 

福原 50代の管理職の中には「自分は育児に関わった記憶がない」と言う人もいます(笑)。

 

安藤 そういう人にとっては、男性が育休を取るなんて衝撃というか、意味がわからないでしょうね。

 

福原 私は四人兄弟ですが、私の父は、赤ちゃんの抱き方がすごくぎこちなくて、見ていてハラハラしました。50代以上の方は育児の経験が少ないですね。

 

安藤 あの頃はそれで良かった。父親と母親の役割分担がハッキリしていて女性の側も納得していたと思う。でも今の若いママたちは学歴も高くて、仕事をしていたりする。それを諦めて育児という大変な労働をやっているわけだから、感謝の気持ちが男性側に必要だと思います。

 

【子育ては一大事業だ!】

 

福原 いや、本当に。私が一番思ったのは、専業主婦は一般的に低く見られがちで「仕事していない」なんて言われますが、そうではないということ。子育ては一大事業です。もっと堂々と、誇りを持っていいと思います。

 

安藤 でも褒めてくれない、感謝もされない、認めてくれないので、自分の気持ちが壊れてしまうママも多いわけです。

 

福原 私なんかは、はじめから「稼いで来てやっている」なんていう感覚がなくて、妻と一緒にという感じでやっています。

 

安藤 今の30代はそういう感覚の男性が増えているので、パパの意識面には楽観的です。でも、やっぱり職場の問題があって、「帰りたいけれど帰れない」「育休を取りたいけれど言い出せない」というパパがまだまだ多いんです。やはりリーダーが率先して実践することで、「休んでもいいんだ」「長く職場に居ればいいってものではない」という空気を職場に作ってほしいと思いますね。

 

福原 休み自体を取らないというのが一番大きな点ですね。夏休みも、今までの市長は長期ではほとんど取っていない。私も一昨年はほとんど取らなかったのですが、就任2年目の昨年は、一週間取りました。今年も取ります。いつ取れるかわからないので、8月に20日間ぐらい「予定を入れないで」という日を作っています。そこから一週間ぐらいに調整しようと思っています。育休もそうですが、普段の休みもきちんと取る、それも大事です。

そのためには自分が仕事の上での段取りをしておかないといけませんよね。

 

安藤 進んでいる会社では年間の有給計画を年頭に決めて、みんなで調整して休んでいるところもあります。いきなり取れと言われても、何していいかわからないとか、子どもの休みと合わないので家でぶらぶらしているというお父さんも多いわけですから、組織として、そのような休日マネジメントをしていくことはとても意味がある。個人では言い出しづらいわけですから。

 

福原 どうも、なかなか言い出せないみたいですね。

 

安藤 みんながそう思っているから、そういう空気になっちゃうんですけどね。

 

福原 子どもが産まれてからは、普段でも早く帰れる日は早く帰るようにしています。市長だからって遅くまでいなきゃいけないということもない。メリハリをつけた日程を組むようにしています。

 

安藤 早く帰ることは健康にもいいし家族のためにもなる。そういう考え方をまずは役所からやってもらわないと、民間はなかなか進まないわけです。広島では三次(みよし)市が男女問わず2か月の子育て休暇を義務化していますよね。

 

福原 益田市の職員は差がありますね。有給を全部消化する職員と、そうでない人とに二極化しています。若い職員でも取らない人もいます。

 

安藤 取らないことがスタンダードになっちゃうと、事情を抱えて本当に取らなきゃいけない人が取りにくくなっちゃう。もっとダイバーシティ(多様性)を考えてほしいなと思います。

 

福原 管理職も「ダメ」とは言っていないと思いますが、なんとなく取りにくい空気が出来ているのかもしれないですね。

 

 

【育休中にパパがママにできること】

 

安藤 広島県知事が育休を公にしたことで、取りやすくなったということはありますか?

 

福原 私の中では、文京区長が育休を取ると発表されてすぐに妻の妊娠が分かったので「2号になろう」と決めていました。それ以降にたくさん出て来られたので、2号ではなくなりましたけどね(笑)当選当時は、私が最年少首長だったのですが、今はもう30代が20人以上います。今は育休を取られている首長は40代が多いですが、これからもっと増える可能性は大いにあると思います。

 

安藤 実際にお子さんが産まれて、ご自分の政治信念に影響はありますか。

 

福原 何よりもまず、命の大切さを実感しました。甥っ子がいたので、身内のかわいさは知っていたのですが、わが子はやっぱり違いますね。私に似ているんです(笑)

 

安藤 立ち合い出産をされたのですか?

 

福原 したかったのですが、仕事柄ちょっと難しかったですね。朝の11時ごろに産まれたので…。外での公務が終わった直後にすぐ病院に駆けつけました。ありがたいことに、ちょうどその時間が空いていたので。子どもが産まれて、洗ってもらったりしているうちに、すぐ私が到着したという感じでした。

 

安藤 奥さんには何と声をかけましたか?

 

福原 「本当にお疲れさま」と声をかけました。出産のときも大変だったでしょうが、その前がずっと大変ですよね。陣痛が始まってからの様子を見ているだけでもう、女性は強いなと思いましたね。産んだ時もすごくて、産んだ後は今もそうですが、母乳をあげて寝られないような状況でがんばってくれている。丸二年間は赤ちゃんに付っきりです。女性には逆らえないなと思いました(笑)

 

安藤 奥さんに対して、育休中に心がけていたことはありますか。

 

福原 自分ができることは自分から率先してやろうと思っていました。抱っこしたり、おむつを替えたり、夜寝られない時に代わったりとか。今も、妻が腱鞘炎になっているので抱っこはすすんでしています。

私は自分用の部屋をもらっているのですが、夜寝ない時はそこへ連れて行ってあやしたりもしています。

 

安藤 男性は特に、授乳ができないので寝かしつけの悩みがよくあります。自分が何をやってもムリだったのに、ママが母乳をあげるとコテッと寝るので敗北感を感じるパパもいるようです。

 

福原 最初の頃は、妻も精神的に参っていたのか、私が抱っこした方が落ち着いたこともありました。だから妻の方がぽろっと「授乳しかできないのかな…」なんてこぼしたこともありました。今は私が抱っこするよりも、妻が抱っこする方がいいみたいですけど。

 

安藤 ママがいくらやっても寝ない子もいますよね。パパが代わってあげるんじゃなくて、ママの背中をさすってあげたら寝たというケースもあります。

パパが「ママ大変だね」と気持ちを受け入れてあげて、表現すると、ママの気持ちがスッと軽くなって、子どもも安定するということもあるようです。

 

福原 なるほど!それはこれからがんばってみようと思います。

 

安藤 そういうことが自然にできると、本当のイクメンですよ。最近、「オレがオレが」みたいなパパも多いんです。どっちが上手いかと競っちゃう。そうではなくてお互いに「ありがとう」という言葉をかけ合ったり、認め合うことが大事。母親なんだからできて当たり前とパパは思わずに、常にママに感謝することです。そうすればママも夫や子どもに優しくなれるはずで、子育ても楽しくなってきます。

 

福原 ほんと、妻はすごいなと思います。

 

【育児は車の運転と同じ】

 

安藤 育児の中でこれが得意ということはありますか?

 

福原 いやぁ、まだ無いですね。とにかく「男は何もできないなあ」と思っています。

 

安藤 最初は仕方ないです。学ぶ場がないわけですから。「できない」と意識した時に、あきらめずに始めればいいのです。

 

福原 育児って車の運転と同じかなと思います。一人暮らしの時は、遠くへ行く時も自分一人で運転していましたから、本当に疲れるんですね。ところが結婚して二人で乗るようになると、少しでも妻に代わってもらうととてもラクなんです。一時間休んでいる間に、距離も進むし、気持ち的にもとってもラクになる。

それと同じかな、と。ずっと妻が一人で育児をしていると張りつめてしまうので、そこを少し代わってあげる、そういう感覚でやっています。妻も、今はどう思っているかわからないですが、はじめは私にそんなに育児をすることを求めていなかったようです。「育休も別に取らなくてもいいよ」と言っていました。

でも取った後は「よかった」、「気がラクになった」と思ってくれています。

 

安藤 今は女性の側も、「子育ては共同、家族でやるもの」という意識がすいぶん高まってきています。昔は母親が子育てをするものという意識がとても強かった。地域差はもちろんありますが、そういう意識改革がこの島根県でもどんどん進むといいと思います。男性も、昔みたいに働いていれば経済が右肩上がりに成長していくという時代ではなくなったわけです。人口も減っている中で、違う価値観が求められるようになってきました。

 

【子どもには「感性を高める」経験を】

 

安藤 お子さんに、どういう子育てや教育をしていきたいと思っていますか。

 

福原 妻とも話しているのですが、とにかく「感性を高める」経験をさせたいと思っています。益田には、「グラントワ」という芸術文化施設があり、美術館もホールもあります。そういうところで本物に触れるという経験を、たくさんさせたい。勉強などは本人の向き不向きもあり、しろと言われてするものではないですが、チャンスはいっぱい作りたいと思っています。

私はどちらかというと、天命を信じる人間ですので、それぞれ与えられた天命の中で本人が必要なことは選ぶだろうと思っています。ただ、それに対して、何かを学びたい時の環境を与える義務が親にあると思っています。自分もそういう風に育てられました。小さいうちからいろんなところに連れて行ってもらいましたから。

 

安藤 今は、99を100にする人よりも0から1を生み出す人が求められています。僕にも三人子どもがいますけれど、なるべくいろいろなものを見せて、経験をさせて、そこから自分で見つけて行ってくれればいいと思っています。

 

福原 三人ですか、大変ですよね。一人でも大変なのに。

 

 

安藤 いやいや、三人の方がラクです。一人が一番大変なんです。最初の子は誰でもそうだと思いますが経験もないので、親ものめりこむでしょう?赤ちゃんのころはそれでいいんだけど成長すると子どもだって親子関係とは違うものを求めます。兄弟が多いと、そこに社会ができるので子どもにもいいし、子どもは子ども同士で遊ぶから、親はラクちんですよ。ほんと、僕も三人目で育児の本当の楽しさを知りました。

 

福原 私の母親はよく昔から「三人育てないと子育てはわからない」と言っていました。

 

安藤 子ども同士も育て合いますしね。うちは中2のお姉ちゃんが3歳の息子をお風呂に入れたり、トイレに連れて行ってくれたりする。それが娘にとっても、母親になるトレーニングというか、いい経験になっているはずです。

 

福原 私は四人兄弟の二人目ですが、いちばん下が11歳離れているんです。だから小さい子に全く抵抗感がありませんでした。弟や甥っ子二人もお風呂に入れたりしていたので、慣れていたのが良かったと思っています。

だから、首がすわっていない時も、抱き方を思い出すまでは怖かったけれど、思い出したらああそうだったという感じでしたね。

 

安藤 一人っ子が多い東京では、中学生を保育園に呼んで園児とふれあい体験をしているところもあります。小さい子と遊んで頼りにされるという実感があると、自己有用感が生まれて、親に対しても感謝の気持ちがわくようです。少子化社会ではそのような子育て支援の施策も必要になってくると思います。

 

【教育と子育ては益田で】

 

福原 子育てや教育に関しては「教育と子育ては益田で」と言われることを目指しています。

また、三世代同居というのが今後大切かなと思っています。高齢者福祉の面でも、教育の面でもいろんな面でもメリットが多い。うちも私の実家に妻は頻繁に行っています。それと、市内にはおむつを変えられる場所がまだまだ少なかったりするので、そういう施設の整備もしていきたいと思っています。

 

安藤 東京ではすでに多くの男性トイレにも当たり前におむつ替えシートがありますよ。

 

福原 行政はもっとその辺りに敏感にならないといけませんね。自分が子どもを持つようになってからこそわかったこともあります。ベビーカーで通りにくい道があるとか。これから子どもと外に遊びに行くようになると、もっと見えてくるものがあると思っています。

 

安藤 これから益田で子育てをするパパママへのメッセージをお願いします。

 

福原 個人的には「私は育児をやっています」とあまり言わなくてもいいかなと思っています。うちの場合は、私がこんな仕事をしていて妻は専業主婦なので、妻がある程度やってくれています。その中でも自分でやれることを見つけ、妻が大変なときにしっかりフォローしていけたらいいと思っています。

 

安藤 昔みたいに、どこまでが誰の担当という線を引かないということですよね。

 

福原 昔と言っても、昔は農業や商売など当たり前に一緒にやっていましたよね。私の母なども自営業で経理をずっとやっていました。専業主婦という考え方が出てきたのは戦後です。イクメンという言葉に象徴されるのかもしれませんが、男性が育児をすることがカッコいいというか、カッコ悪くないというイメージも大切ですよね。

 

安藤 まさに、FJは「育児する男性はかっこいい」というポジティブなイメージ作戦に出たのです。

 

福原 そういう意味では、私は初めから意識せずに普通にベビーカーを押していました(笑)

 

安藤 そう、既に普通になってきているのですね。なので「イクメン」という言葉は廃れていくでしょう。当たり前になれば「俺はイクメンだぜ」とわざわざ言ってベビーカーを押す人はいないわけです。ただ一方で問題なのは、女性側の意識。まだ男性が育児することを快く思わなかったり、男性が家事をやっていると「あそこの奥さん何をやっているの」みたいなことを言う人がいます。女性側の意識変革も大切です。男性が育児や介護をしたりすることに抵抗を持たず、多様性を認め合い、みんなで支え合えたらいいと思いますね。

 

福原 益田市でも、男性が育児を楽しめるように、子育て支援に取り組んでいこうと思います。

 

安藤 島根でも30代パパは、新しい感覚で育児を楽しんでいることが良くわかりました。益田で子育てをしたいというパパママが増えるように、これからもがんばってください。今日はどうもありがとうございました。

 

取材・文:さわらぎ ひろこ