#FJ緊急フォーラム レポート
2010年の育休法改正から10年。男性育休100%達成を宣言する企業は77社を超え、国家公務員の男性育休1カ月以上取得推進が来年度から制度化されるなど、男性の子育て参加をめぐる社会の空気は確実に変わりつつあります。
特に強力な追い風となったのは、現職の国務大臣、小泉進次郎大臣による育休取得の決断です。一方で、「会社を休んで家でゴロゴロされても迷惑なだけ」とママからの不満がネット上で共感を集めました。
多様な意見がぶつかり合うのは、社会が変わる過渡期の証拠。「今こそがチャンス!」と、FJは、2020年2月6日(木)永田町にて緊急フォーラムを開催。「パパ育休は今度こそ本当に進むのか? 〜男性育休は社会を変えるボウリングの一番ピン!〜」と題し、働き方改革や少子化対策、家族ケア、企業経営、自治体首長ら各界キーパーソンたちによるプレゼンテーションを公開しました。
◆令和時代のパパを進化させる新たなキーワードとは?
冒頭、FJ代表理事の安藤哲也より語られたのは、ズバリ、「なぜ男性育休を進めるべきなのか」。
「妊娠・出産期から継続的に父親が子育てに関わることで、子どもとの関係、夫婦の関係、家計の持続的発展、さらに職場の組織力強化につながっていく。まさに男性育休の推進は、日本が抱える社会課題を一気に解決する“1番ピン”になる」
ボウリングでストライクを取るコツは、先頭の1番ピンを勢いよく倒して、10本のピンを一気に倒すこと。同じように、男性が育児・家事に積極的に参加できる社会を実現することは、児童虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)の予防、女性活躍や働き方改革の推進、生産性の向上、介護離職防止、地域社会活性化、ジェンダー平等化など様々な課題が前進するのだと説明しました。
実際、夫の家事・育児参加率が高いほど、第二子以降の出生率も高くなることや、若い世代ほど子育て参加意欲が高いことをデータで紹介。「父親が変われば家庭が変わり、地域が変わり、企業が変わる。そして、社会全体がトランスフォーメーション(変革)していく」と、その意義を強調しました。
これらの効果を早くから訴えてきた安藤代表は、「ここ数年で空気が大きく変わりつつある潮目を感じている」とも。イクボス企業同盟に加盟する日本生命や積水ハウスなど大手企業だけでなく、地方の中小企業にも男性育休推進の導入が進んできたことや、男性公務員の育休取得が原則となる動きを紹介しました。
一方で、男性育休を進める上でのシビアな問題点も浮き彫りになっていると指摘。
例えば、小泉大臣の育休取得が話題になった時に、ネット上で不満の声を上げたのは、パパの子育てを歓迎すべき存在の“ママ”たちでした。「#とるだけ育休」「#夫ゴロゴロ問題」「#ダンナ給料減る問題」など、男性育休をネガティブにとらえる声から見えてくるのは、早急に対策が求められる重点テーマ。「パパが子育ての戦力になるためには、教育の整備が不可欠。FJでは、男性育休推進とプレパパ向け産前講座受講はセットであることを強く勧め、それを実現しやすいリソースを提供していきます」(安藤代表)。
具体的には、FJ講師陣による独自のノウハウを凝縮した「FJ式プレパパクラス」の開催を本格的にスタートすることを発表しました。
◆産前講座全国調査から見えてきたパパママギャップ
産前講座はすでに各地の自治体や産院が実施し、パパが参加できる講座も増えているのが現状。では、今の産前パパ教育に何が足りないのか?
その課題発見のために実施した全国調査の速報値を発表したのは、塚越学理事。全国の2歳以下の乳幼児を持つ男女5,000人(うち男性1,819人)を対象に産前講座に関するリサーチを行った結果として、「受講率は7割、男性も6割超とまずまず。しかしながら、『講座で受ける内容と実際に子育てが始まってからの悩みにギャップがあった』という声が多く挙がった」と解説。さらに、「講座を受けていない男性からは『産後に困ったことは全くなかった』という回答がトップとなるなど、子育てへの関わり度の低さが浮き彫りになった」と説明しました。
現行の講座では、妊娠期の注意点や新生児のお世話についての内容に比重が置かれるのに対し、「実際に困ったこと」の上位に挙がるのは、産後のトラブルや夫婦間のパートナーシップの難しさ。今後の産前講座への要望として、「夫婦共に参加しやすい日時や会場の設定をしてほしい」という声が男女共に目立ち、さらに女性からは「夫に父親の自覚を持たせる内容を」「男性も参加必須にしてほしい」という切実な声が聞かれたことを紹介しました。
これらの声を受けて、FJでは働く親でも参加しやすい産前講座の環境整備を進めることを提言。職場で平日の日中や夜に参加できる“企業内産前講座”の開催を、各企業が実施しやすい規模感に合わせて設計する方針を発表しました。
同時に目指すのは、産後の困りごと解消への即効力を高める施策。「産院や自治体が実施する講座とは差別化したコンテンツを充実させていきます。医師・助産師・保健師など医療従事者が提供できるコンテンツとは異なり、かつFJが得意とする『夫婦の子育て協力体制づくり』『父親の子育て力アップ』に特化したコンテンツを展開し、家庭のチーム形成を応援したい」(塚越理事)
ママの不安を取り除き、パパのライフを応援する教育機会の提供を強化することで、男性育休の“質”を高めるステージへと底上げしていくことを宣言。
FJ式プレパパクラスのコンテンツを具体的に説明する体験&相談会を3月11日(水)に文京区シビックセンターにて開催することもご案内しました。
https://prepapa.peatix.com/view
続けて、男性育休推進のためにと全国から駆けつけたパネラー7人による課題共有と提言へ。実際に育休経験のある男性リーダーたち、少子化対策や児童虐待、ジェンダー対策などの専門家による発言から、それぞれの要旨を紹介します。
◆文京区長・成澤廣修氏「理論武装なしで男性が育休取れる社会へ!」
・2010年に自治体の首長として初めて育休を取得。この10年でパパの育児参加は格段に増えたし、世の中の景色は変わりつつある。
・しかし、今回の小泉大臣のように多角度から理論構築しないと男性が育休取得に踏み切れない分野はまだまだある。シンプルに「子どもと妻のために育休を取ります」という意思一つで認められる社会を目指さないといけない。
・自治体としては働く親の子育て支援として、病児保育や夜間保育の拡充を引き続き行っていく。しかし、子育て支援がスペック合戦になってはいけない。どんな家庭でも無理なく子育てできる環境づくりをゴールとして、働き方改革とセットで進めていきたい。
・文京区内では、男性育休取得率は2割近くまでに増え、1年単位で男性職員も出てきた。子どもが産まれる予定の職員に対し、上長が育休の制度説明することを義務化(取得の選択は本人の自由意志)する要綱の効果と見ている。
◆衆議院議員・寺田学氏「大臣育休を支持!リーダー主導で空気を変える流れを」
・私自身も落選期間中に育児に専念した経験があり、今回の小泉大臣の育休取得を支持する。限定的であっても、リーダーが姿勢を示すことに意義がある。
・しかし残念ながら永田町は冷めている。批判は大きく分けて「大臣なのにけしからん!」「国民が先。議員は後!」「休まなくても育児は可能」といった3つ。しかし、どんな職業でも親としてわが子に関わるのは当然の権利であり、国民のよりよい暮らしのために空気を変えるのも議員の役目。また、リーダーの最大の役割は“意思決定すること”であり、子育てとの両立は働き方の工夫で乗り越えられるはず。近日中に、超党派のママパパ議連から応援声明を出す予定。
・参議院議員の妻のつぶやき、「育児も家事も全部妻任せにして仕事に専念してきた政治家がつくった世の中が、今の日本の姿。古い常識を変えない限り、社会は前の進まないのでは?」に納得した。
◆豊島区議会議員・永野ひろ子氏「日本の国会・議会も、ジェンダーに配慮して国際レベルへ!」
・2017年に全国調査し、議員の出産事例を調査した。約160件の事例があることが分かった。出産議員ネットワークと子育て議員連盟(現在100名ほどの規模)を主宰。
・ジェンダー指数などを発表する列国議会同盟(IPU)が、2017年に「ジェンダーに配慮した議会のための行動計画」を決議し、子育て中の議員への決議し、子育て中の議員へのサポートや産休、育休推進について明記している。国会できちんと議論してほしい。子育てしながら議員活動を全うできる。地方議会のみならず、国の最高立法機関がその手本となるべき。草の根ではあるが、超党派の勉強会やディスカッションの機会もつくっている。
・昨年末、全国の約1,800の地方議会を対象に、男性議員の育休取得状況(過去15年)を調査したところ、 3.66%という結果が出た。取得者をインタビューしてみると、非常に及び腰の印象。どんな立場であっても堂々と子育てに関われる社会へと近づけていきたい。
◆三重県知事・鈴木英敬氏「24時間働く男が、“空気を変えるイクメン知事”に変われた!」
・自身も第一子・第二子共に育休を取得(現職の知事として初)。「隗より始めよ」の精神で、三重県庁で男性育休推進。男性職員の育休取得率は36.7%と、過去最高を更新して全国1位。
・組織の空気を変える秘訣としては、トップの率先垂範だけでなく、管理職の目標達成とコミットメントを高める仕組みづくりが重要。三重県では、労使双方の納得のもと「育児参画計画書」を導入。子育て中の働き方を可視化しながら労使で相談できるツールが効果を上げている。
・三重県の平成30年の合計特殊出生率は1.54で、前年度比の伸び率は全国1位。男性の1日あたり育児時間平均は、5年間で18分増(全国10位)となった。県内のイクボス同盟加盟企業数は623となり全国1位に。
・素敵な育児を実践している男性を表彰する「ファザー・オブ・ザ・イヤーinみえ」も開催。受賞者には、里親でお子さんを迎えた男性も。多様なパパモデルを応援するのも、リーダーの役目。
・好評なのは、オリジナル冊子「みえの育児男子HAND BOOK」。10分でできる遊びの事例や、「女の子の髪の結い方」など、痒い所に手が届く情報を発信している。
・強調したいのは、「人は変われる」ということ。今ではイクメン知事としてテレビで特集されるようになった私も、10年前の経産省官僚時代は名刺に「年中無休・24時間!」と書き、当時のブログでは成澤区長の育休取得を批判していた。そんなダメ男でも変われる!
◆ワーク・ライフバランス代表取締役社長・小室淑恵氏「男性育休推進に待ったなし! 向こう1年の加速が必須」
・男性育休推進は命を守るシビアな問題。産後女性の死因の1位は「自殺」であり、産後うつを社会全体で防ぐ取り組みが不可欠。産後うつのピークは2週間〜1カ月。うつを防ぐために有効な「日光を浴びる」「睡眠時間を確保する」という対策が、夫の育休取得によって可能になる。
・採用戦略として、男性育休の本気度を高める企業は増えている。しかし、団塊ジュニア世代の出産を促すには、ここ1年が勝負。国を挙げてスピードを上げることが重要。
・「うちは無理」と思い込んでいた企業も大きく変革している。新潟県長岡市の従業員数155名のサカタ製作所では、勤怠情報の見える化を徹底し、残業時間平均は月1.1時間へと激減。結果、残業代は年3,445万円削減、全額賞与還元へ。従業員の家庭で産まれた子どもの数が4年で4.5倍になり、「採用にまったく困らなくなった」と経営者は喜んでいる。「変わるのに時間がかかる」と思われがちな大企業の事例では、大和証券が男性育休率はたった4年で2%から100%達成となった。変革は短期間でも十分に可能だと証明された。
・「男性育休100%宣言」の参加企業は77社に。参加企業の経営者による「男性育休応援動画」は再生回数約20万回となるなど話題に。仕事に没頭し、子育てに十分に参加できなかった世代の男性経営者たちの素直な反省と次世代へのエールは、「#もっと一緒にいたかった」というキーワードで拡散された。
◆サイボウズ代表取締役社長・青野慶久氏「時短もおすすめ。男性に多様な働き方の選択肢を」
・当社の人事制度の方針は「100人100通りの働き方」。働く場所・時間は自由に選べるように制度を変え、公平性より個別対応を重視した結果、28%あった離職率は4%に。従業員数は今年1,000人を超える見込みで、人事部門をまとめる執行役員は時短勤務中の2児の母である。
・業績面も好調で、時価総額は今年に入って1,000億円に。日経コンピュータの顧客満足度最新調査「クラウド基盤サービス部門」で第1位も獲得した。今後は胸を張って「大企業でも柔軟な働き方の推進は可能であり、社員一人ひとりの特性を活かす経営をすればGAFAにも負けない」と証明していきたい。
・自身も3人の子育て中で、長男では2週間の育休を、次男では毎週水曜日を育休日として半年間続けた。2015年に第三子の長女が産まれた時は、妻から「育休は取らなくていいから、毎日16時半の保育園迎えを任せたい。毎日ちょっとずつ戦力になってくれるほうが助かる」と言われた。ならばと、16時までの短時間勤務を半年間続けてみたところ、業務の引き継ぎも不要で社内の評判も上々。男性にとってハードルが低いと感じた。つまり、男性育休のスタイルもいろいろあったほうがいい(*小室氏より補足:「法律改正によって、育休期間中でも月間80時間までは臨時稼働は認められている。“休むか、休まないか”の二択ではなく、職場とつながりながら子育てできる“半育休”という方法があることも広く周知されたい」)。
・子育てに積極的に参加したことで、やっと“社会人”になれたと感じている。それまでは“会社人”でしかなかった。地域で多様な世代の価値観に触れる経験によって、社会課題を自分ごととして語れる真の社会人になれる。
◆ジャーナリスト・治部れんげ氏「世界と足並みを揃えて、“脱・ジェンダー後進国”へ」
・2019年12月に発表されたグローバル・ジェンダーギャップ指数では、153か国中で先進国最下位の121位という不本意な結果に。2006年の調査開始以降、下がり続けている。その背景として大きいのは「ジェンダー」の問題。日本では、育児・看護・介護といった無償ケア労働が、女性に著しく偏っているという現状がある。
・男性育休に関しては、制度面では日本は世界的にもトップクラスの充実レベルと評価されている。不足しているのは「風土」「文化」「規範」。ジェンダーギャップ指数1位のアイスランドの議員に「小泉大臣の2週間育休は長いと思うか?」と聞くと「短い」と即答された。また、スウェーデンでは外交官も育休を取るのが当たり前だった。「要職の男性は育休を取れない」というロジックは成り立たないと感じた。
・「日本だからしょうがない」と諦めてはいけない。昨年6月に大阪で開催されたG20の合意文書では、「女性のエンパワーメント」についての言及に多くが割かれた。その割合は全43段落中22〜23段落に及び、「無償ケア労働におけるジェンダー格差に取り組む」と明記。また、固定的性別役割分担を是正する方針も打ち出された。日本国民の税金を投じて開催されたG20で示された方針を尊重し、世界のリーダーたちと足並みを揃えていくことを日本の政治家に是非求めたい。
◆少子化ジャーナリスト・白河桃子氏「職場から家庭へ男性を帰す“父親ブートキャンプ”を」
・働き方改革が進めば、男性の子育て参加は増えるかと期待したが、結果はそれほどではなかった。では、残業せずに浮いた時間を何に使っているのかと調べたところ、「テレビや新聞など」が最も増えていた。まさに「パパは死んだものだと思っている」と女性に失望させてしまう現実がここにある。やはり重要なのは、父親教育のスタートアップ強化。子育てを夫婦の共同事業化するためには、男性育休義務化くらいの強い後押しが必要ではないか。
・その根拠として参考にしているのはフランスの事例。産後14日間の父親休暇を2002年に制度化し、産前の父親を対象にしたスキルアップ機会も提供した。2018年度の政策評価でも、父子の長期的に良好な関係の継続や夫婦間の家事育児分担円滑化など、ポジティブな影響が報告されている。日本においても、「父親ブートキャンプ」の促進を政府主導で進めていってほしい。
・イクメン先進国といわれるスウェーデンでは、40年前から「育児をすることは男らしい」と発信するキャンペーンが進められた。当時のポスタービジュアルには国民的スターの重量挙げ選手が赤ちゃんを笑顔で抱く写真が採用されており、現在では街中でバギーを押す男性の姿がごく当たり前の風景に。
・世界各国が男性の子育て支援に本腰を入れる理由は、経済面での要請も大きく関わっている。近年では、投資家向け非財務情報としてハラスメントやジェンダー政策の項目が重視されるように。賃金格差のほか、「男女平等に育休などが取れるか」といった項目も投資家から厳しくチェックされるようになりつつある。
以上、パネラーの皆さんからも続々賛同の声が集まった「男性育休と父親教育のセット推進」。
FJの林田香織理事からは「男性が育休を取得した後の夫婦に何が起きるか」のインタビュー調査の結果も報告され、「重要なのは育休中だけでなく、復職後もパパの意識と行動が持続していくこと。時短などの制度を男女限らず活用していくのが、令和時代の夫婦の目指す姿」と説明されました。
「子育て期に夫婦のパートナーシップが強化されると、将来の離婚リスクも低下すると言われている。何より、子どもが安全かつ健やかに育つ環境づくりとして、父親の子育てコミットは重要」と安藤代表。
児童虐待の問題に詳しい高祖常子理事は、「家庭環境は多様化・複雑化し、ママを孤立化させないことが大切。そして、ママが一番相談したい相手はパパ。特に虐待の死亡例が集中する0歳期には、ママが不安になりやすい夕方にパパが毎日帰宅できる生活を社会全体でサポートすべき。残業している場合ではありませんよ!」と会場に投げかけました。
フォーラムの終了間際に届いたのは、この日の“主役”とも言える小泉大臣からのダイレクトメッセージ。
妊娠期から妻のサポートを第一に心がけてきた体験や、オムツ替えなどリアルな子育てに奮闘する様子、「省内の男性職員にも育休をぜひ取ってほしい。社会を変える空気を、環境省からつくっていきたい」というリーダーとしての意気込みが伝えられました。
フォーラムに集まった参加者全員には、感謝と抱負を述べるメッセージも配られました。
「今回の大臣育休という大きな波を、確かな推進力に変えていきたい。皆の力で制度と空気の改革を加速させ、男性育休が当たり前の社会を引き寄せましょう」
安藤代表が閉会の挨拶を告げた後も会場の熱気は冷めることなく、共感や意見を交換し合う参加者たちの姿があちこちで見られました。
当日の録画視聴をご希望される方はこちらからお申込ください。
フォーラム登壇者のプレゼン資料はこちらからダウンロードできます(全員ではありません)https://ikuboss.com/pdf20200206
了 (文・宮本 恵理子)